楽すぎる社内SEになろう

私はWeb系企業で二年ほど働いた。現在は社内SEをしている。
間違いなく社内SEは楽だ。なぜ楽なのかを前職(web系)とくらべて話したい。

Web系

労働環境は会社に依存するが、基本的に激務だ。私が経験した会社もあまり良いものではなかった。

まず技術職は全員遅くまで(見込み)残業する
インフラエンジニアに至っては24時間365日の障害対応が求められた
。それでいて給料は極めて低かった。とても人間的な生活ではなかったと思う。
社内の雰囲気も、技術至上主義のような空気があり居心地が悪かった。
(あいつは技術追求に興味がないからだめだ!みたいなもの)
※それについては過重労働で疲れてしまい、技術的な向上心を失っていた私が悪いのだけれど。

結局、どう考えてもブラック企業なのだ。それでも同僚は良い人に恵まれたし、スキルのベースは間違いなくここで育まれた。周りが皆エンジニア(それもWeb系のエンジニア)なので仕事はしやすかった。

Web系の仕事場

壁をぶち抜いた、だだっ広いフロア。
無数に敷き詰められた机と椅子。Web系企業はオープンな雰囲気が好きだ。理由はしらない。

高層ビルの一角にあって景色は良かった。とはいえ景色なんて見慣れるし、エレベーターが混雑して嫌だった。働く人間にとっては、景色より食事時の混雑がよほど死活問題なのだ。

殆どの人がデュアルモニタを使っていて、キーボードやマウスは自前のものを用意。とにかく自由でなんでもOKだった。こっそり自宅サーバにsshしてテスト環境として使っていても、周りは見て見ぬフリをしてくれていた。

Web系に向いている人、向いていない人

Web系に向いている人の特徴として、技術志向が強かったり、生涯コードを書きたい人。そういう根っからのエンジニアな人間には、いい環境かもしれない。次の転職のため、最先端のITスキルを身に着けたい人にも向いている(Web系で十人並みの実力があれば、大企業で要求される水準の能力程度はクリアしているとみて良い)。或いはさほど学歴がなくても採ってくれたりする。

でも疲れる。新しいOSSが出てきたら、イチから勉強しないと乗り遅れる。自分にとってまったく興味がないようなモノでも、知ってないと軽んじられる。
なのに安月給。バカみたいに安い給料でコード書くのはきつすぎる。

実際に程度の差はあれ、給料が安いという悩みをみんな共通して持っていたように思う。
人並みの給料が欲しかったり、人間的な生活を望むなら、向いていないだろう。

社内SE

いっぽうで、転職先は普通の会社だった。ITなんてよくわからない人のほうが多い『普通の』会社。
あえて悪いところを挙げていくと、人間関係は前より気を遣うし、仕事を通じた技術的成長もあまりない。

生産性の低い作業(すぐに自動化できることだったり、やる意義が低いこと)を一生懸命にやっている人もいて、しかし上層部からの評価はそういう人のほうが良かったりもする。

上層部にはITが分かる人がおらず、技術的裏付けを無視した『経営判断』で歯がゆい思いを強いられることもある。

でも楽だ。給料も前よりいい。早く帰れる。定時すぎたら20分くらい後片付けをして『お疲れ様でした』。技術なんて自分で勉強すればいいのだ。むしろ独学こそ至高。そう思えるホワイトさがある。

社内SEの仕事場

社内SEとして私が勤めたのは従業員500人ほどのメーカーだった。

こちらは一般の事業会社らしいデスク――――――典型的な事務作業用PCと付属のキーボード・マウス、モニタ―――が並ぶ中で一際目立つデスクが私の席…となっている。いやほんとは支給装備以外使ってはだめなのだけれど、作業効率とか生産性とか言って、持ち込みを許可してもらった。最後にはマルチモニタを導入。作業環境としては申し分ない。

また、非IT企業で社内SEをするメリットのひとつが「自分側」と「会社側」にある情報格差だ。何をしても上の人はわからないので、後から取り繕える。すると精神的に余裕ができる。

もちろんそれはメリットであると同時にデメリットでもあるのだが・・・(たとえば技術的には明らかにこうした方が良いというケースも、経営層の判断で違う方向にいくことがある。また、どうせわからないからと楽をしすぎてしまえば数年で使えない人材の出来上がり)。

それでも、納期に追われることはないので、自分のペースで仕事ができる。社内の人間相手の仕事なので、そこは融通が効く。

なにより最高なのは、一般的なサラリーマンみたいにさっさと帰れること。

非IT企業に身を置いて実感するのは、世間のサラリーマンとかOLとか言う人々が、それほど凄い仕事をしているわけではないこと。彼らが邁進する業務の多くでは、普遍的なスキルは身につかない。ずっと続けていたら『その会社でしか通用しない人間=転職できないサラリーマン』になりかねない。
日本の会社員の大多数は、もし海外に出たらせいぜい清掃員になるのが関の山だ』という話を以前どこかで耳にした。要するに専門性が身につかないのだ。

これは『大学は遊んでサークル活動に精を出し体育会系のノリで就活を乗り切ります』という日本の社会土壌も背景にある気がする。大学で学ぶ知識を軽視して、OJTを軸とした教育に頼り切りなのだ。
結果的に、日本企業に溢れる『業務』の多くが専門家でなくても(それどころか派遣会社からきた素人でさえ)なんとかこなせてしまうレベルから、進化しない。

グローバリズムの波に呑まれゆく日本では、どんな人でもうまく家庭を持てた時代は終焉を迎えつつある。
真っ先にその犠牲となったのが日本のIT業界だ。昔はITといえば高度な専門業務だった。だが次第に、常駐型派遣だのオフショア開発だのが溢れだし…相次ぐダンピングによって、ITの労働環境はひどい有様になった。今ではIT土方などと言われている。しかも皮肉なことに、日本の労働史とともに発達してきた土建業のほうがホワイトで、広義のドカタのほうが格段に労働環境が良い。比較的新しい産業であるITは、労働者保護の観点が未発達なのだ。

別業種にまで目を向ければ、日本にはまだまだ楽な仕事が残っている。古い体質の年功序列型企業に注目してみよう。比較的楽なサラリーマン生活を送っている方々がたくさんいるのだ。そういう人たちとあなたで、一体何が違うのだろうか。

技術職であるエンジニアは日本企業では仕事の成果をアピールしやすい。周りよりも専門性が高いからだ。あなたが持っているIT技術は、そこそこの給料もらってるサラリーマンの職能よりも、よほど価値がある場合が多い。この相対的優越を利用しない手はない。なのになぜ多くのエンジニアは、IT企業で安い給料をもらって、馬車馬のごとく働くのだろう。

結論

いまIT業界で必死こいてヒィヒィ言いながらコード書いてる人は社内SEになろう。社内SEでまったり仕事をしたほうが絶対にワーク・ライフ・バランスは良い。

実際私がそうだった。Web系だってそりゃ楽しいかもしれないが、一部の天才か、技術が好きでたまらないような人でないと、しんどいと思う。仮にいまは大丈夫でも、いつか絶対にしんどくなる日が来る。

自分が年を食って新しいことを学ぶのが辛くなったとき、まったりエンジニアな生活を営む大切さを実感するだろう。